- 池上コーディネーター
- このシンポジウムのコーディネーターをつとめさせていただきます、池上幸雄と申します。よろしくお願いいたします。
パネリストの皆さんには、それぞれの市町村の代表としてお出でいただいていますが、テーマにもありますように「未来のまちづくりを語ろう」ということですから、本日はこれから作ろうとしている「新しい市」について皆さんの思いを十分語っていただければと存じます。
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新しいまちの将来像 |
- 池上コーディネーター
- それでは最初に「新しいまちの将来像」について、小坂樫男伊那市長さんにお聞きします。
- 小坂伊那市長
- 一番は、自然がすばらしいことです。キャッチフレーズにあるような「2つのアルプスに抱かれた市」は、他にはありません。自然を大切にし、「売り」にしていきたいと思います。
- 池上コーディネーター
- それでは、市民の視点による「新しい市のメリット」についてはいかがでしょうか。竹中則子委員さんの住んでおられる伊那市をはじめ、高遠・長谷の素晴らしいと思われる点、また、これらが一つになった場合のより大きな利点などについてお聞きします。
- 竹中委員
- 高遠・長谷は、私の近親者のふるさとです。高遠は母の里です。幼い頃からだるま市に行っていました。田山花袋の「たかとほは山裾のまち古きまち ゆきあう子等のうつくしき町」、商店の看板に中村不折の手によるものがあるなど、文化の香るまちです。進徳館から始まった「人づくり」もすばらしいと思います。
また、長谷は夫の母の里です。全国に胸を張ることができる紅葉等、自然がすばらしい。人の手のつけられていない宝物がたくさんあります。3つの市町村を合わせて、次代を担う子供たちに「合併」というプレゼントをしたいと思います。
- 池上コーディネーター
さて、3市町村が合併することについて、住民の皆さんには「行政区が広くなることで、きめ細やかなサービスがなされなくなるのではないだろうか」「事業や施設が中心部に集中し周辺部が寂れてしまうのではないか」「地域課題の解決が難しくなるのではないか」などの不安もあるでしょう。合併によって自分の住んでいる地域が不便になっていくようではマイナスです。
住民の皆さんのこのような不安を解消するために「地域内分権」ということが言われているようですが、この「地域内分権」のあり方について、伊東義人高遠町長さんお願いします。
- 伊東高遠町長
- 3市町村は、交通・病院・買い物など、伊那市を中心とした生活圏となっており、一体感があります。
合併を推進すると町が寂れるという声があります。昭和の高遠の合併では、旧村に置かれた支所が5年ほどでなくなり、今回もそうなるのでは、という不安の声があります。しかし伊那では、昭和の合併の際に設置された支所が現在もあり、すばらしいことです。
今回の合併では高遠・長谷には総合支所が置かれ、今と変わらないサービスを提供できます。周辺部が寂れないようにし、むしろ、地域の組織が強化できます。今までと変わらない行政システムとし、現地解決型の組織になります。特別職の区長が置かれ、議会的な役割をもつ地域協議会が設置されます。地方分権が行き渡れば、過疎なども解消していくと思います。
- 池上コーディネーター
- ただいまの伊東町長さんのお話で、新しい「地域自治」の姿が見えてきたように思われます。
一方で私たちの周りには、昔から連帯感をもった地域社会が維持されてきました。新しい市になるとこの地域社会・地域組織はどうなるのでしょうか。宮下市蔵長谷村長さんにお聞きします。
- 宮下長谷村長
- 合併によって通学・通勤範囲が大幅に拡大し、地域社会が希薄になるのではないかという不安があります。地域社会は、農村を支えてきた力です。しかし、現在は「個人化」が進み、連帯感の構造というものが希薄になってきています。個人の意識を改革し、「自分たちの地域は自分たちで守る」というように自らの意識を変えていくことが必要です。
例えば、「高齢者・弱者が安心して暮らせる(防災組織)まちづくり」「NPO・ボランティアなどの積極的な参加」「学校・家庭・地域が連携した教育環境づくり」「他力本願・役場依存でなく『自らの地域は自らの力で』という協働の働きを」などがキーワードになると思います。
また、合併は、地域づくりの核となる地域組織(区など)の改編を行う契機ともなります。
- 池上コーディネーター
- 宮下村長さんのお話にありましたように、今まで先人が守り育ててきたこの地域を大切にしながら、伊那・高遠・長谷が一体となって新しい市を築いていくことが望まれているようです。この三市町村はいろいろな面で深い繋がりを持った地域と言われますが、具体的にはどうなのでしょうか。
- 小坂伊那市長
- 合併で一番大切なのは、地域の一体性があるかどうかということです。山口村は中津川市と一体性がありました。高遠町も長谷村も、通勤・買い物に伊那市に来ており、一体感があります。
また、3市町村間は親戚関係が多く、地縁的な結びつきが多くあります。昭和30年代の三峰川総合開発では、美和ダムに水没した長谷の地区の住民が、多く伊那市へ移住しました。この開発の恩恵を一番受けているのは伊那市です。伊那市の田圃の3000町歩のうち、2000町歩が三峰川の水を利用しています。
このように、3市町村には共通の連帯感と文化が息づいています。それぞれに特色のある3市町村が一つになれば、すばらしい市になると思います。
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まちづくり計画について 〜 観光面から |
- 池上コーディネーター
- さて、ここまで皆さんに新しい市へのイメージを語っていただきました。ご参会の皆さんにも新市の輪郭を捕らえていただけたことと思いますが、実際に新しい市をつくるに当たりましては、より具体的な計画や指針が必要となります。
伊那市・高遠町・長谷村合併協議会ではこのほど「新市まちづくり計画」を策定したと聞いています。竹中委員さんは、この計画策定に当たって、委員として検討を重ねてこられましたので、この「まちづくり計画」の 作成経過やその特色などについてお話ください。
- 竹中委員
新市建設計画策定小委員会は、合併協議会に設置されている3つの小委員会のうちのひとつです。策定までに会議を6回開催し、まちづくり計画についての検討を重ねました。
新市まちづくり計画(新市建設計画)に市民の声を十分に取り入れるため、まちづくりフォーラムを開催し、タウンウオッチングを行いました。タウンウオッチングでは、高遠、長谷について知らなかったことの多さに驚きました。自分の足で行き、自分の目で見たことには間違いがないと確信しています。
この計画を活かしていくのは、わたしたち住民の義務です。キャッチフレーズのような素晴らしい新市を実現するためには、私たちも協働の力を発揮しなければなりません。
- 池上コーディネーター
- いまお話いただいた「新市まちづくり計画」では、観光面についても大きく取り上げられています。これからしばらく、このことについて話を進めていきたいと思います。
小坂市長さん、いよいよ来年度には権兵衛トンネルの開通が見込まれており、木曽と伊那との距離が大幅に狭まりますが、それによって地元の人々の暮らしや観光面にどんな変化がもたらされるのでしょうか。
- 小坂伊那市長
- 権兵衛トンネルが開通すると、木曽−伊那間がこれまで1時間30分程度かかっていたのが、30分に短縮され、一つの生活圏になります。今まで南北の交流が主流だった伊那谷に、国道361号線を中心とした東西の交流が生まれます。関東圏、関西圏まで2時間以内となり、日本の東西の接点となります。
このことで一番変わるのは、やはり観光面ではないかと思います。個々の市町村ごとの観光ではなく、3市町村を結ぶ観光ルートも実現できます。高遠の観桜期の渋滞対策には、伊那インター周辺に駐車場を設置することも考えられます。
また、木曽・上伊那を含めた広域的な観光ルートもできるのではないかと思います。2つのアルプスをまたぐ観光ルートも考えられます。南アルプスの眺望は、伊那市の西箕輪からがすばらしいのです。
- 池上コーディネーター
- 高遠は城下町として、長い歴史と優れた文化・教育の伝統を受け継いで現在に至っています。また「桜の町」としても全国的に名を馳せています。
「新市のまちづくり」では、こうした素晴らしい資源をどのように生かそうと考えておられるのか、伊東町長さんにお聞きします。
- 伊東高遠町長
- なんと言っても、高遠といえば城址公園の桜です。廃藩置県により城が壊された後、荒れた城址に地元住民の皆さんがボランティアで桜を植え、140年が経ちます。ですから、町民の思い入れがとても深いのです。
その他に、高遠から全国へ発信できるものとして、守屋貞治に代表される石工、進徳館、信州高遠美術館、だるま市などがあります。また、民間が出資したローズガーデンや花摘みクラブなど、官民一体で取り組んでいるものもあります。
こうした取り組みは、大きな市でやればもっとすばらしい発信ができるでしょう。新市においては、観光が飛躍的に発展するのではないかと期待しています。
- 池上コーディネーター
- 新しい市の将来像にも「二つのアルプスに抱かれた自然共生都市」と謳われていますが、雄大な南アルプスは今後の観光の大きな目玉になるものと思われます。
この点について、新しい市においては、どう進めていったらよいでしょうか。
- 宮下長谷村長
- 南アルプスは、独立峰が多くアプローチが長いという特徴があります。国立公園であるため、勝手に道路、小屋を造ることはできません。山岳観光は5月から10月が中心です。以降は冬山となります。「南アルプスの村・長谷村」と言っていますが、実は村に来ると南アルプスは見えません。むしろ、伊那市からの展望が良いのです。
私は自分の地域にある山を大切にしていきたいと思います。山を含めた「観光コース」をつくって滞留時間を長くし、他地域と連携した観光を考えています。そのために、山や山野草の案内ができる人を養成しています。
また、国の機関とも連携をもって、三峰川の源流地域としての関心を高めたいと思います。開発をするのか、自然のままとするのか検討は必要ですが、できるだけ自然の原風景を保ちたいと考えてます。
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今、なぜ「合併」か? |
- 池上コーディネーター
- 市町村長さんから、新しい市のまちづくりについて、主に観光面からお話いただきました。新しい市に寄せる期待が高まってきた思いです。
さて、ここで、3市町村が合併するということについてもう一度考えてみたいと思います。
今、なぜ合併が必要なのか。これは合併について考えるとき、真っ先に浮かぶ基本的な疑問です。この点について小坂市長さんにお聞きしたいと思います。
- 小坂伊那市長
合併することの一番の理由は「財政」です。国、地方には700兆円の借金があります。平成16年度には、国からの市へ渡されるお金が約10億円減らされました。どんな市町村でも、合併を検討しています。
国は、行政と住民が乖離せず、効率も良い規模の目安を「10万人都市」としています。同じ内容の行政サービスの経費でも、一人42万円かかるところと、一人150万円かかるところがあるのです。
合併は、市町村が自分たちの力をつけることを目的としています。いまだかつて経験したことのない少子高齢化社会では、福祉施策を維持することが難しくなってきます。行政コストを下げるしかありません。
国、県の関与を減らし、市が自立していくことが合併です。市が、市民の税金でまかなえるようになることが自立です。市も、民間のようにリストラ、合理化をしていかなければなりません。合併は、その一つの手段であり、避けて通ることはできません。
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住民と行政の協働を |
- 池上コーディネーター
- 合併に際しては、もちろん、住民の皆さんの声をお聞きし要望を取り入れていくことが大切です。合併によって期待するものについて、住民の代表として竹中委員さんにお聞きします。
- 竹中委員
- 財政等、これからどうなるのか不安に思っている時に、合併の話が出てきました。これからは私たち住民一人ひとりが努力することによって、住民参画のまちづくりを進めていくことが必要です。合併はそのためのいいきっかけになると思います。未来の子供たちに、「お金がない」という時代ではなく、いい夢をつないでいきたいと思います。
- 池上コーディネーター
- 先程、お話のありました「地域内分権」と言う視点から、行政は地域の住民の皆様の声を市政運営に生かしていくことが大切ですし、住民の皆さんもどんどん市政に参画していくことが求められています。
いわゆる「住民と行政との協働」ということが今後、ますます重要視されてくるものと思われますが、この点についてはいかがでしょうか。
- 竹中委員
- 市民が望む努力をしていくことが大切です。男女共同参画社会を推進し、今、家にいる人たちの力を借りることで、地域を今以上に発展できます。住民一人一人が持っている力を出して、新しい市を作りましょう。
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新市の重要施策 |
- 池上コーディネーター
- さて、新しく誕生する市では、様々な施策が実施されるものと思われますが、特に重視されている点につきまして、順にお伺いしたいと思います。はじめに小坂市長さん、お願いします。
- 小坂伊那市長
- 合併しても決してバラ色というわけではありません。しかし、サービス、福祉が低下するのはよくないと思います。少なくとも現状を下回らないようにしなくては、合併の意味がありません。なかでも住民福祉と産業が重要だと考えます。
国の特殊出生率は1.29です。人口の維持には、2以上でなければなりませんが、伊那市は1.7です。今後は少子化対策、子育て支援を進めていきたいと考えています。
産業、観光についても、3市町村で連携を取りながら進めていきます。
- 池上コーディネーター
- 次に、伊東町長さん、いかがでしょうか。
- 伊東高遠町長
- 過疎対策が重要です。過疎化、人口減が進んでいます。ある程度の人口がないと、町に活気がありません。町営住宅施策、増えている結婚しない人たちへの対策を重視します。また、空き家に、他地区から転居して来てもらうことも考えています。過疎自立支援後期計画に取り入れ、推進していきます。
交通弱者対策も重要です。現在、高遠町内なら片道200円でバスに乗ることができます。新市においては、伊那までの循環バスができればよいと思います。
権兵衛トンネルが開通し、城址公園の桜への観光客が増えることへの対応として、152号線の道路整備や、三峰川右岸から高遠への道路の整備が必要です。2つのアルプスを活かした、観光の発信地を目指して、住民と連携しながら進めていきたいと思います。
- 池上コーディネーター
- 最後に、宮下村長さん、いかがでしょうか。
- 宮下長谷村長
- 新市の一体感の確保が重要です。長谷には、山村として、水源地域としての役割があります。景観を保持し、都市との交流を引き続き進めます。
老人福祉においては、専門職をおいて推進します。過疎対策とともに、安心、安全な地域づくりを進めます。
- 池上コーディネーター
- 竹中委員さんには、新しい市への思いや期待感をお話しいただきたいと思います。
- 竹中委員
- 新しい市への夢はふくらみます。住民の声が活かされるまち、温かく人間性のあるまちを期待します。南信の中核都市として、全国から注目されるようなまちにしたいと思います。若い人に、夢と希望をもってもらうようなまちづくりを期待します。
合併したら、みんなで手をつなぎ、お祝いができたらすばらしいと思います。
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新しい市への思い |
- 池上コーディネーター
- 最後に、新しい市への思いを込めて、小坂市長さんにまとめをお願いします。
- 小坂伊那市長
- 合併を契機に、新しいまちづくりを行います。3市町村のそれぞれにある特色を活かします。
今回の合併は、南信の中核都市になるための、一つのステップです。合併を経験した首長は、「合併問題は、感情が半分を占める」と言っています。結婚に例えると、結婚前にたくさんデートをすることが必要なように、お互いをよく知ることが大切なのです。
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(終了 午後 8時18分) |