「伊那市の水と暮らし」市報いな 令和8年1月号特集
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更新日:2025年12月24日
私たちの暮らしと「水」は切り離すことができません。山々に降った雨や雪を、豊かな森が長い年月をかけて育み、大地に湧き、流れてきた水が、私たちの暮らしを潤してきました。人と水のつながりを「伊那市の水と暮らし」というテーマで紹介します。
美和ダム
天女橋
小黒川
記事内の場所等を示した地図(Googleマップ)
水を辿る
最初の一滴
三峰川源頭
川の始まりは、しばしば「最初の一滴」と表現されます。三峰川の場合は、三軒岩小屋沢の出合を過ぎ、地蔵尾根方面へ沢を遡ると、苔むした緩やかな斜面から静かに湧き出すように始まります。豊かな自然に囲まれた美しい姿からその様子を「日本庭園」という人もいます。
三峰川の源頭部
地下から湧く水
鳥の宮の湧水
手良地域の「鳥の宮の湧水」には、市内外から多くの人が訪れます。地元の利用者は「水はおいしく、野菜の洗い場にも使います。冬は漬物用の野菜を洗うなど、日常的に使っていて、とてもありがたい場所です」と語ります。
鳥の宮の湧水
大根を洗っている様子
大清水
飲料水確保のため整備され、江戸時代から利用されている西町の「大清水」は、水量の変化が見られるものの、今も管理組合により大切に守られています。

大清水(2015年6月撮影)
大清水(2025年11月撮影)
受け継がれる水
城下町の水場
高遠の城下町には、町内で唯一の「水場」があります。約130年前からこの地区の共同水場として利用され始めたといわれています。かつては同様の水場が各所にありましたが、上水道の整備が進むにつれてその役目を終え、現在はこの一カ所のみが残っています。
水場は地元の利用者が協力して管理しています。週に一度、当番が水を全て抜き、底から丁寧に清掃します。「日常の水」として、静かに町の暮らしを潤し続けています。
城下町の水場
まちを流れる
小黒川
市の西側、木曽山脈の将棊頭山を源流とし、西春近と西町の間を東へ流れて、最後は天竜川に合流します。
小黒川沿いには段丘崖が続きます。川が扇状地を深く削り込んでできた「田切地形」で、伊那谷を代表する地形のひとつです。斜面には木々が連なり、季節ごとに色づいて景観を彩ります。
清流に親しむことができる小黒川渓谷キャンプ場には県内外から多くの方が訪れます。
小黒川
棚沢川
伊那山地の鉢伏山を源流とし、最後は天竜川に流れ込みます。山に近い上流は勾配が急なので、雨の降り方や季節によって、水の量や流れの速さが大きく変わりやすいのが特徴です。
棚沢川の近くに住む野底区在住の平澤さんは、「棚沢川は、日頃はとても穏やかな川です。子どもたちが川に入り、アカウオ(ウグイ)をたくさん捕まえたことは、今も良い思い出として残っています。一方で、大雨の際には災害が発生することもあり、いつも心配になります。良い面もあれば厳しい面もありますが、私たちはこの川とともに暮らしてきました」と語ります。
棚沢川
水を映す
春
六道の堤

東春近の水田と中央アルプス
夏
白山橋
天竜川(二条橋下流)
秋

千代田湖
六道井(一番井)
冬
初冬の小沢川
小黒川の氷
水を引く
中央分水嶺を超える水
木曽山用水
田んぼや畑で作物を育てるのに欠かせない水をどこから引いてくるのか。古来、水は貴重で、時には水を使う権利をめぐって争いも起こりました。
西箕輪の標高800メートル以上の土地に暮らす上戸・中条の人たちも、農業に用いる水にとても苦労してきました。明治時代の初め、上戸・中条の人たちは、低いところを流れる川やすぐに地下にしみこんでしまう水を使うのではなく、山の向こうの木曽谷に流れる白川水系から水を取り、用水路を流して小沢川の支流の北沢川から安定的に取水する「為替水(替水)」を計画しました。県の役人や木曽谷の人たちと粘り強く交渉し、用水路の工事が認められ、上戸・中条に暮らす人々の手によって工事が進められました。標高1600メートル付近から取水し、山を回り、標高1523メートルの権兵衛峠を越え、伊那側まで長さ約12キロメートルの「木曽山用水」に水が通されたのは、いまから約150年前のことです。

木曽山用水の隧道入口と水桝

木曽山用水の関係図(地理院地図から作成)
その後、木曽山用水は約70年前の伊勢湾台風で壊れてしまい、今度は約1キロメートルの隧道(トンネル)を通して、木曽から水を引く計画を進め、新たな木曽山用水として改修されました。苦労して木曽から引いてきた水は、直接、上戸・中条の農地を潤しているのではなく、小沢川の別の支流の南沢に落とされ、下流の農地で利用されています。その代わりに上戸・中条に近い牛蒡沢の水を分けることで、木曽の水と北沢川の水を替水として引水しています。
また、白川から取っている水と上戸・中条に流される水の量を正しく量り、同じ量にするために木曽山用水や牛蒡沢には「水桝」が設けられています。関係者が水桝の計量に毎年立ち合い、現在まで木曽の水が使われ続けています。
木曽に流れていれば奈良井川から犀川、千曲川を経て日本海に注がれるはずが、伊那に引かれて小沢川、天竜川を経て、太平洋に流れるようになった水。中央分水嶺を越える用水路は、全国でも珍しく、木曽山用水は伊那市が誇る、いまだ現役の大切な農業遺産です。
上戸中条水利組合で木曽山用水の管理をしてきた有賀正喜さんのお話
有賀正喜さん
昭和30年代、父親は春先になると木曽のワサビ洞の山小屋に寝泊まりし、井筋(用水路)の整備のための作業をしていました。昭和43年(1968年)、ワサビ洞から南沢への隧道が完成し、自分は十代の頃から南沢上流の水桝までの道や牛蒡沢から上戸・中条への水路を整備する人足に出て、少しでも多くの水を田んぼに入れるために汗を流してきました。先人が知恵を絞り苦労しながら引いた水を大事にするという心を水路とともに後世に伝えたいです。
高遠城に水を
御用水と月蔵井
江戸時代、高遠城の南曲輪には池を中心とした庭園があったとされ、当時の絵図に基づき、発掘などの調査・研究を進めています。標高約800メートルの高台に築城された高遠城で使う水「御用水」はどこから引いていたのでしょうか。
南曲輪で進む発掘調査
城内では井戸水を使うだけでなく、東側にある月蔵山を流れる樋ヶ沢などから高遠焼の土管も使って水を引いていました。また樋ヶ沢には約180年前から月蔵井と呼ばれる井筋で水を引いていました。月蔵井は、長さが約11キロメートルにわたり、山室川の赤坂付近(標高約1000メートル)で取水していました。緩い勾配で長い区間の水路を引く高い技術が高遠城内外の生活を支えていました。

御用水・月蔵井の関係図(地理院地図から作成)
水を渡る
昭和初期に架けられた小さな橋
大小さまざまな川が流れる地域では、道路交通の発達にともない、昭和の初め頃から永久橋と呼ばれるコンクリートや鋼鉄でできた橋が架けられてきました。
現在、市が管理する長さ2メートル以上の市道橋は、700橋以上あり、点検や修繕を行いながら橋の長寿命化を進めています。
小戸沢橋
西春近の小戸沢川に架かる長さ4.3mの橋で、現在の橋は昭和2年(1927年)に架けられました。親柱には「府縣道長野飯田線小戸沢川」と刻まれています。明治時代にも前身となる土橋が架けられており、伊那谷の南北方向の主要な交通を支えてきました。
小戸沢橋
1037号橋
荒井の市道元町線が沢渡川を渡るところに架かる長さ約2.8mの小さな橋です。昭和6年(1931年)から95年にわたって使われており、親柱はまちの近代化の痕跡を留めています。市道の橋のうち200橋以上がこの橋のように3m以下の短い橋です。
1037号橋
これから架けられる大きな橋
天竜川で進められている環状北線の橋の工事
現在、市内では主要な幹線道路の整備が進められています。道路整備に伴い天竜川や三峰川にも今後、大きな橋が架けられる予定です。
環状北線は、伊那インターチェンジと現在施工中の国道153号伊那バイパスを結ぶ都市計画道路です。天竜川を渡り、山寺と中央を結ぶ長さ106メートルの橋を工事中であり、現在、2本目の橋脚や右岸の橋台がつくられています。
伊駒アルプスロードの市内区間は、西春近から天竜川を渡り、東春近、富県を通り、三峰川を渡ってナイスロードまでです。
これらの道路整備により3つの大きな橋を架けることで、既存の橋の付近で発生している市内の道路渋滞の緩和を図ります。
現場代理人として橋脚工事を施工する守屋建設株式会社の笠原 悠さんのお話
笠原悠さん
橋脚工事で濁った水を下流に流さないよう沈砂し、コンクリート打設ではアルカリを中和して排水するなど水を汚さないようにしています。ざざ虫漁や稚魚の放流にも影響のない工期にしています。高さ約13mの橋脚が支える橋は、これから何十年もまちの大事なインフラとして使われるので、責任とやりがいを感じて工事をしています。
まとめ
伊那市は、食・水・エネルギーを自立的に確保できる社会を地方都市から築くことを目指しています。
今回は、そのなかの水について多面的なあり方の一部を紹介しました。水道水、治水や発電に使われているダム、農業用のため池、森林が涵養する地下水など、今回の特集に取り上げられなかった面もこの機会に注目してみましょう。そして伊那市の水資源をきれいに保ち、有効に使いながら、次世代へと引き継いでいきましょう。
PDF_特集「伊那市の水と暮らし」市報いな 令和8年1月号(PDF:985KB)
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お問い合わせ
伊那市役所 総務部 秘書広報課 広報広聴係
電話:0265-78-4111(内線2131 2132)
ファクス:0265-74-1250
メールアドレス:his@inacity.jp
