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入笠山

ページID:476267261

更新日:2021年9月28日

高遠町から車で小一時間、静寂の千代田湖を過ぎてカーブの続く山道を慎重に走ります。植林されたカラマツ林は、春の芽吹きも夏のムンムンする緑も、秋の黄色い装いもすべていつもの入笠山への序奏じょそうです。カーブを左に回り込むと、突然牧歌的な景色の中に飛び出します。この転調ともいえる変化が、入笠山への誘いを一気に高揚してくれます。
入笠山と入笠牧場、大阿原湿原おおあはらしつげん、牧場を区切るコナシの白い花の帯、四季を彩る花々、豊富な蝶たち、静かな流れの異空間ともいえるテイ沢の佇まい。入笠山は手ごろな登山と高原の透明感を楽しめる山として私の愛してやまない場所です。今回は、私のお奨めのスポット、好きな季節、とっておきの景色、草花などについてお話したいと思います。
まずは、「入笠山」そのものです。標高1,955m、山頂からのパノラマは秀逸です。北アルプス・中央アルプス・南アルプス・八ヶ岳・霧ヶ峰・富士山をはじめ、遠く秩父の山々や御嶽・乗鞍岳・加賀白山までも見られる大パノラマが待っています。八ヶ岳と南に広がる裾野は、なぜか平衡感覚を失うような錯覚を伴う不思議なバランスです。登山口から山頂まではほんの30分程度、眺望を楽しみながらお弁当を広げて過ごす時間は至福の時です。缶ビールでもあればご機嫌のひと時を過ごせます。
「大阿原湿原」は幻想的な場所です。霧でも出ていようものなら、人跡稀じんせきまれな空間に取り残されたかのようです。木道を歩くと湿原にはモウセンゴケ、コケモモ、ツマトリソウ、ヤナギラン、マツムシソウ、サワギキョウ、チダケサシ、サギスゲなどの他にミズゴケの仲間も目を楽しませてくれます。湿原の周りはトウヒ、ツガなどの原生林に囲われ、しっとりとした森をつくっています。
その大阿原湿原を源として「テイ沢」が流れ出します。一年を通して安定した水温と水量が原生林の中を流れています。カニコウモリやマイヅルソウ、ヤグルマソウなど林床を形づくる森には、ひときわ白いオサバグサやツバメオモトが目をひきます。じっと淵を覗いてみるとイワナの姿も見つけられます。テイ沢が生まれる大阿原湿原から小黒川との合流点までおよそ1.5kmの流れは、耳に優しい沢音とともに木漏れ日に浮かぶコケに覆われた美しい姿の渓谷です。
テイ沢を下ると林道に出ます。林道を少し登ると、北原新道と書かれた小さな看板があります。この看板に導かれて山道を登ると「高座岩こうざいわ」に出ます。文明5年(1473年)に身延山久遠寺みのぶさんくおんじの高僧日朝上人にっちょうしょうにんが、この岩に座って七日七晩説法をしたと伝えられます。高座岩の僅か北には、身延山と高遠町三義みよしを結ぶ「法華道ほっけみち」、つまり日蓮宗を伝えた仏の道があります。かつてはこの山道は物資を運ぶ生活の道であり、人々の交流を生む道であり、仏の道でもあったのです。高座岩を「さざれ石」と呼んでいる人もいます。戸台層とだいそうに属し、かつては海の底にあった礫岩れきがんで貝の化石なども見つかっています。ここから見下ろすと、山室川やまむろがわの谷が遠くに臨むことができます。

高座岩の北には御所平ごしょだいらがあります。ここを過ぎて右手方向の「入笠牧場」に下っていくと、JAの経営する赤いトタン屋根の農協ハウスがあります。周囲にはコナシの古木が林立し、気持ちの良い木陰を提供してくれます。喧騒けんそうから隔離された昭和の時代と錯覚するかのような雰囲気です。ここの管理をしているのは三沢さんで、入笠愛をして三沢さんの右に出るものは無いと言われるほど個性の強い方です。三沢さんのお奨めは、ここから軽トラックの通れる山道を歩くこと20分ほどにから見る、入笠山と大沢山の景観です。本人はこの場所を「吉永小百合の丘」と呼んでいるようです。なぜ吉永小百合さんか知りませんが、これほどの景観が伊那にあったのかと唸る素晴らしい眺めです。牧柵のなかには放牧された牛が見られます。注意して歩かないとフンを踏むことになります。三沢さんはともかく自慢します。「こんな静かで良いところはない。夜空はさらに素敵だ。星を見に来い」と誘います。確かに大沢山の頂上にはJAXAの研究施設があります。宇宙デブリを探す施設としては世界一と聞きました。入笠山は星の観察にも適したところなのです。
農協ハウスから入笠山登山口へ舗装された林道を歩くと途中に「貴婦人きふじんおか」と呼ばれる、なるほどねと分かる丘があります。一本のダケカンバとその横に一本のアカマツのある丘で、その遠方には中央アルプスの山脈を見ることができます。「貴婦人の丘」の命名者は、あの三沢さんです。ほかにも「アラスカの森」とか「〇〇の〇」といった名前を付けては愉悦に浸っています。
登山口の御所平峠東側には防鹿柵ぼうろくさくのネットで囲われた「お花畑」があります。かつての入笠スキー場で、冬には随分と賑わった時代もあります。Tバーを股に挟んではロープで上がって滑り降りるスタイルのスキー場でした。お花畑にはスズラン、シモツケソウ、シシウド、ヤナギラン、チダケサシ、コオニユリ、マツムシソウ、ノアザミ、サワギキョウ、ヤマドリゼンマイなど、それはそれは見事なお花畑です。
入笠山の魅力のほんの一握りをお伝えしたわけですが、実は春夏秋冬それぞれの表情を持ち、それが朝昼晩と変わるわけですから、この魅力は何十倍の魅力を持っていることになるわけです。「池の平」の白樺とレンゲツツジも、のんびりと草をんでいる放牧牛も、牧歌的な風景です。「入笠湿原のスズランやクサレダマの群生」、「オシダの大群生地」、「首切り清水の伝説」など皆さんに是非とも訪れてほしい場所です。冬もお奨めです。スノーシューをはいて歩く雪原、テレマークスキーで滑る斜面、シュカブラの変幻自在な変化、ダイヤモンドダスト、霧氷や樹氷の幻想の世界など魅力満載の入笠山です。

「清流」 まほら伊那市民大学 令和2年度修了記念文集 掲載

伊那市長 白鳥 孝

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