たき火通信 其の百四十一

鹿嶺高原の丘に立つと指呼（しこ）の間（かん）に、仙丈ヶ岳と東駒ヶ岳（甲斐駒ヶ岳）の山容が飛び込んできます。まさに「ドッカーン」と迫力ある圧倒的な風格です。仙丈ヶ岳の南には、塩見岳・荒川岳・赤石岳のジャイアントの雄姿が、振り返ると西駒ヶ岳（木曽駒ヶ岳）・空木（うつぎ）岳（だけ）などの中央アルプスの山々が、北方には穂高岳から白馬岳の北アルプス全山が、さらに乗鞍岳・御嶽山、そして遥かに加賀（かが）白山（はくさん）を望むことができます。山座（さんざ）同定（どうてい）をするには格好の場所、まさに360°の大パノラマを楽しむことができます。
高原は標高1,800ｍほどで、伊那市長谷の溝口から車でおよそ12ｋｍ、カラマツ林の林道を登りつめると、月見（つきみ）平（だいら）キャンプ場と北星（ほくせい）平（だいら）キャンプ場の「天空のキャンプ場」と呼ばれる人気スポットに着きます。この時季、アヤメ・レンゲツツジ・コナシ・クリンソウなどの花を楽しめます。
実はこの鹿嶺高原は、もともと入笠高原同様に軍馬の飼育を目的とした牧場でした。戦前のことです。その後、馬から乳牛（にゅうぎゅう）に変わり、鹿嶺牧場として地域の畜産振興にとても大きな役割を果たしました。鹿嶺牧場は昭和47年（1972年）頃まで開設されていたようです。この広大な牧場閉鎖後は、高原開発を目的に長谷村から長野県企業局へ、企業局から大手民間企業へと転売され、再び長谷村に戻った経緯があります。結局のところ観光開発は行われず、亜高山帯の自然は手付かずのまま残ったわけです。
「天空のキャンプ場」に加えて、マウンテンバイクの「トレイルカッター」も人気です。「道の駅 南アルプスむら長谷」から、マイクロバスにバイクと一緒に鹿嶺高原まで運んでもらい、ここから林間に開設されたコースを一気に駆け下るスリル満点のアクティビティです。コースは6本ほどあり、自転車の専門誌でも「日本で最も美しいコース」との評価を受けているようです。
そして今年度は「鹿嶺テラス」です。「雷鳥荘」横の伊那市街を俯瞰（ふかん）できる位置に、大きな木製のテラスを造ろうというものです。四季折々の高原の風情を楽しみ、コーヒーやビールなどを片手に満天の星を眺められる、新たなスポットがまもなく誕生します。