
伊那を代表するナシ
愛媛県の内子町を訪れたことがありました。農林水産省中央審査 委員会の審査対象のひとつが内子町の直売所「からり」で、山間の集 落の先進的な取り組みと活動内容を数人の委員の先生方と視察し たのです。直売所の仕組みと売り上げ状況、活動の継続性や将来性、 地域貢献、コミュニティの親和性など複数項目について具に調査を しました。昼食を取ったあとマイクロバスで坂道をグイグイのぼると、 山の中腹のやや傾斜が緩くなったところにカキとナシの果樹園が広 がっていました。私が長野県の伊那市から来ていると言うと、「ああ、 南水の故郷ですね。南水は甘くてここでは一番人気のナシです」と作 業している女性が言いました。「南水の故郷は伊那?」
ナシと言えばまず真っ先に出てくるのが「二十世紀」です。私の小学 生の頃の運動会には、家族が持参したナイアガラのブドウと二十世 紀のナシが応援席の主役でした。夢中になって応援しているとスガリ やアカバチがやってきて、ナシの皮やブドウにしがみついていたのを 思い出します。当時の伊那谷では青梨系統の二十世紀が主流だった 気がします。瑞々しい果肉と爽やかな甘さはほかにはない味でした。
そして最近のことです。「市長、知ってるかい?南水は伊那市の人が 開発したんだぜ」と、「伊那の果実」(1991年伊那園芸技術振興委員 会発行)や「信州伊那谷生まれの梨、南水物語」(JA長野県)を届けて くれました。読んでいくと南水は晩生の「越後」と、早生の「新水」を交 配して作られたようです。下伊那郡高森町下市田にある長野県南信 農業試験場で新品種の育成試験が始まり、このプロジェクトに関 わっていた方が、伊那市狐島の牧田弘さん(故人)で、信州大学農学部 を卒業し南信農業試験場で研究開発に携わっていたようです。 近年のナシは「豊水、新水、幸水、長十郎、南水・・・」と赤梨系統のも のが多く、それぞれ甘味と果汁にすぐれ、市場では高い値段で取引さ れています。特に南水は伊那谷で多く栽培され、高い日照時間や昼夜 の日較差の大きさなどから糖度が14~15度と高く、酸味が少ない 高級なナシです。因みに「南水」の南は南信農業試験場の南と、親木 である「新水」の水から命名されているそうです。