たき火通信 其の二十九
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更新日:2014年10月1日
高原の牧場に牛の姿は見えません
食害
南アルプス一帯には、30,000頭以上のニホンジカが生息するといわれています。里山から、亜高山帯・高山帯までその生息域を広げています。「花の仙丈ヶ岳」と称された、人気の仙丈ヶ岳周辺でも、シカ・鹿・しか・ニホンジカだらけです。馬ノ背から小仙丈カールや大仙丈カールまで、群れをなしてわがもの顔に跋渉(ばっしょう)しています。彼らは6月の雪解けの頃から植物の枯れる9月下旬まで、貴重な高山植物を、朝から寝るまで食(は)んで暮らしています。かつて「お花畑」と呼ばれたところでは、黄色や白、ピンクなどの花は消え、手入れされたかのような疎(まば)らな芝生に変わってしまいました。ニホンジカが舐(な)めるように食べてしまったのです。これはこれで大変なことなのですが、もうひとつの心配は亜高山帯の惨状(さんじょう)です。1,500mから2,500m付近には、シラビソ・コメツガ・トウヒなどの針葉樹とダケカンバ・ナナカマドなどの広葉樹の原生林があります。そしてその林床(りんしょう)には、カニコウモリやシダ類といった植物があり、強い雨が降っても針葉樹や広葉樹が受け、そこから滴り落ちる雨滴は、その下の林床植物が優しく受け、そして地面に滲(し)みていきます。つまりいくつものクッションがあるので、雨はいきなり流れ出さないのです。しかしニホンジカが、この林床にある植物や針葉樹の樹皮まで食べつくしてしまい、南アルプスの亜高山帯には、雨を受ける力と大地を支える力がなくなっています。つまるところ雨は直接山肌に落ち、表土をいきなり剥(は)ぎ取って流れだすわけです。貴重な高山植物がなくなり、林床は裸地化(らちか)し、土砂崩れの前兆が始まり、南アルプスの山奥では、じわりじわりとニホンジカによる被害が広がっています。
平成24年11月 白鳥 孝
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