たき火通信 其の二十三
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更新日:2014年10月1日
「コブシが花をいっぱいつけると豊作」むかし祖母から聞きました
コブシ
「むかうの山に辛夷(こぶし)の花が咲いていゐるとさ。ちよつと見たいものだね。」「あら、あれをごらんにならなかったの。」妻はいかにもうれしくつてしやうがないやうに僕の顔を見つめた。「あんなに咲いてゐたのに。・・・」これは作家、堀辰雄(ほりたつお)が昭和18年(1943)に書いた、「大和路・信濃路」にある一節です。堀辰雄が妻(多恵(たえ))と中央西線に乗って、春の奈良へ行く途中に車窓から見た、木曽路のコブシの会話です。辰雄がうっかり見過ごしているのを、多恵は本を読みながらも、ちゃんとコブシを見ていたことを得意そうに話す場面です。春浅い、まだ枯れ枯れしている景色に、コブシのぽったりとした白さは、二人ともずいぶんと気になったことでしょう。
コブシは春を告げる花です。伊那谷にも浅い春に目を引くコブシの名所があります。私の知るその場所は、小黒川の上流、内の萱(うちのかや)集落付近から見る「権現づるね」の群生地と、伊那市役所庁舎南側のコブシ林です。権現づるねのコブシは、とても見に行く気にならないほど高い所にありますから、あきらめて下から眺めるのがいいでしょう。かたや市役所のコブシは、池と築山(つきやま)の景色のなかにあって、すてきな香りに包まれた枝を、鼻先で楽しむこともできます。コブシはこの時季しか確認できない花です。6弁の白い花びらが茶色く落ちて、若い柔らかな緑の葉がでてくると、あの枯れ枯れした山肌にあったコブシの木は消えてしまって、もうどこにあったのかもわかりません。いつの間にか、しかもさりげなく、季節は次にバトンタッチされています。
平成24年5月 白鳥 孝
エゾタンポポ
ヒメオドリコソウ
コブシ(中条)
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