たき火通信 其の百四十九
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更新日:2023年1月25日
毛糸の帽子
完成を待つ帽子
ベッドから起き上がれなくなってからは、家内はひがなテレビを見て、イチゴやリンゴなどの果物と団子や大福などの甘味を食べることを楽しみに過ごしていました。微睡ながら外に目をやると、田んぼの向こうに将棋頭山が見えて、四季折々に蛙の声が聞こえ、早苗の田んぼをわたる風や青空に浮かぶ雲を見ているのが常でした。春になりコゴミの芽が出る頃には、元気だった頃に採りに行ったことを思い出したのか、「もうコゴミはでているかな?」とゆっくり毎日が過ぎていきました。
そんな彼女の趣味は編み物でした。運動機能が低下して指が思うように動かなくなっても、編み物はどうにか続けていました。「これは○○ちゃん(孫)の布団掛け」、「これはあなたの車と市役所で使う座布団」、「マフラーはどんな色がいい?」と、楽しそうに編んでいました。運動機能の低下がさらに進むにつれ編み物からは遠のき、ベッドの傍らには袋に入った毛糸が転がったままでした。
ヘルパーさんや訪問看護士、訪問入浴の皆さんにお世話になるベッドの人となって3年ほど経ちました。社会福祉の充実が改めて重要だと感じています。行政として満遍なく細かなところまでカバーしてきたつもりでも、よくみるとニッチ(隙間)に不足が見えてきます。介護の支援を受けなければ気づかないことなのかもしれません。毎日、おむつや尿パットのゴミは出ます。その量は大変なものです。一般の家庭のごみの倍は出るといっても過言ではありません。その分燃えるごみの袋も必要となるわけです。それでも身の回りの世話や食事の介助を毎日してくださるヘルパーさんや、医療的な支援の訪問看護の皆さんのおかげで日常を過ごすことができています。入浴も社会福祉協議会の皆さんが組み立て式の浴槽を運んで、自宅で入浴できているのもありがたいことです。
もう編み物をすることも忘れていたある日、最近生まれた長男の子どもに「かわいい帽子を編んであげなくては」と、どうしたことか編み棒を取り出して震える手で編み始めました。いつ出来上がるのかわかりませんが、ゆっくりでも前を向いている姿に希望が見えています。
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