たき火通信 其の十八
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更新日:2014年10月1日
山はやがて静かな眠りに入ります
雪むかえ
初冬のあたたかな日には、陽だまりのふかふかな落ち葉のなかにいて、遠くを眺めながら風の音を聞いたり、せわしく飛び回るシジュウカラの姿を追ったりして、のんびりと時間を過ごしたくなります。葉を落とした林は明るく、里山がいちばん輝く季節かもしれません。そんな11月も終わりの鹿嶺(かれい)高原で、すっきりした樹間の向こうに大きな仙丈ヶ岳や東駒ヶ岳を眺めていた時のことです。何本ものダケカンバの樹の枝先からキラキラ光る無数の糸が流れ出しました。クモの糸のようです。糸は北からの微風に横に伸びて、やがて空に舞い上がり、また何本もの糸が銀色に輝きながらつぎつぎと生まれてきます。これは「雪むかえ」といわれる自然現象で、小さなクモたちが別天地をもとめて移動する大冒険の光景なのです。そろそろ雪が降る季節になると、気温・風向・風速・天気などの複雑な気象を知った小さなクモたちは一斉に高い木の枝先まで登ります。そしておしりから糸を出して風に浮かべ、糸が一定の浮力になると、クモは糸と一緒に枝を離れ飛び立つのです。どこへ行くのかわかりません。風まかせ、お天気まかせの大冒険です。もしかしたら谷川の流れに落ちるかもしれません。ずっと上昇気流にのって空の果てまで行ってしまうかもしれません。生息地を広げるための冒険とはいえ、小さなクモたちが南アルプスの山麓で見せる大スペクタクルです。自然の営みの不思議さに驚くばかりです。仙丈ヶ岳を背景に、逆光に輝いた銀の糸がつぎつぎに空へ消えていきます。みんながんばれ!
平成23年12月 白鳥 孝
冬の鹿嶺高原
鹿嶺高原から眺める中央アルプス
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