たき火通信 其の百四十七

小黒川スマートインターから西へ、車で10分ほど行くと鳩吹（はとぶき）公園の南に「市民の森」が広がっています。総面積はおよそ67haのアカマツを中心とした針（しん）広（こう）混交（こんこう）林（りん）で、国内でも有数の広さをもつ平地（へいち）林（りん）です。

平地林には35年ほど前にゴルフ場建設の話がありました。私の所属する社会人山岳会が、この平地林の北の隅に山小屋を建設したのがちょうどその頃でした。山小屋ができると会員やその家族は森に入り、春の山菜やキノコ採り、子どもたちは秘密基地をつくって楽しんでいました。ところが、当時の森には至るところにゴミがありました。古い農機具や空き瓶、空き缶、建築廃材などが森の奥に隠すかのように捨ててありました。このゴミを山岳会員と子どもたちと片付けたこともありました。そのような過去を持つ「市民の森」は、今では「クロスカントリー」、「自然観察会」、「マウンテンバイク」、「森林浴」と、家族で賑（にぎ）わう「鳩吹公園」など四季を通じて親しまれています。

たき火と森を楽しむ日、「森JOY」は5年前から始まりました。11月初旬、カラマツ・コナラ・カエデ・ヤマザクラ・ホオ・コシアブラなど木々の葉が林床に散り敷く、愁思（しゅうし）を漂わせるような秋の日に開かれます。参加者は子どもから高齢者まで、ともかく自由に、ひがなたき火をしたりコーヒーを淹（い）れたりと好きなことをして過ごします。多彩ないろどりの森には、鼻孔（びこう）をくすぐる煙が紫色に滞留しています。マシュマロや焼き芋をする子どもたち、木工工作のトントンと金槌の音、薪を割る斧（おの）の音、森に響き渡る子どもたちの歓声、どれも懐かしく素朴な風景があります。

そして「森JOY」のフィナーレは、世界で活躍するピアニストの平澤（ひらさわ）真（ま）希（き）さんとバリトン歌手の髙橋（たかはし）正典（まさのり）さん、それに地元高校生の合唱「森のコンサート」です。プロのピアニストとバリトン歌手と高校生の澄んだ歌声は、11月の森に溶け込んでいきます。合唱曲「森のこえ」は、晩秋の森に小さな木霊（こだま）をつくりながら静かに響いていました。

伊那に生きる私たちの贅沢（ぜいたく）なイベントです。