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たき火通信 其の百八十六

ページID:470781016

更新日:2026年3月25日

春の雨


仙丈ヶ岳を背景に立ち昇る煙

高校の入学式を終えクラス編成がされた日、担任の熊井先生は「自己紹介を兼ねて自分の好きなもの、高校生活で自分のしたいことを話しなさい」と言われました。とつぜん訪れた予想もしなかった質問に戸惑い、「春先の、雪の残る桑畑に降る雨が好きです」と言って、級友から失笑をかったことを覚えています。坊主頭に詰め襟の私の発する言葉が意外だったのかもしれません。思わず耳朶みみたぶが熱くなったことは覚えていますが、その後何をしゃべったのかまるで記憶にありません。

雪の残る桑畑は、幼い頃から見慣れた、家の縁側から見えた桑園です。そしてその向こうには、仙丈ヶ岳をまん中に南アルプスの山並みの見える風景でした。雪の残る桑畑に降る雨は、寒かった冬に終わりを告げる雨で、あかぎれだらけの母の手や、冷たい布団に丸くなって眠る夜と決別ができる雨でした。

今でも春の雨は好きです。音もなく雪にしみ込んで消える雨は、大地の息遣いを呼び覚まし、自然の営みの喜びを感じさせてくれます。

田畑の雪が何度かの雨と、次第に濃くなる日差しに消えていくと、陽だまりにはオオイヌノフグリが咲き出し、フキノトウが目にとまります。ノビルやカンゾウの芽が伸び始めると田畑には躍動が始まります。そして虫の卵や枯れ草を焼き尽くし、きっぱりと新しいステージを迎える野焼きも私の好きな春の情景でした。

この時期、家の南方にある土を掘っただけの大萱井筋いすじの端には、オキナグサが花を咲かせました。将棊頭山に残る雪の高さと、透明度の落ちた空の変化を知ると、弟と連れだってオキナグサを探しに行きました。陽あたりのいい赤土の土手に、白い絹毛きぬげに覆われて濃い紫色の花をつけ、緩やかに風に揺れていました。

「雪の残る桑畑に降る雨が好きだ」と言って顔を赤くした高校一年生の頃に、家の周りの田畑の風景は大きく変わりました。土地改良事業が進み、田んぼにはU字溝が入り、オオバコの生えた曲がりくねった道は、まっすぐな砂利道になり、やがて舗装道路にかわりました。弟とオキナグサを探した大萱井筋もコンクリートに固められ、花の姿は消えました。これも仕方のないことかな、と遠い昔を振りかえります。

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電話:0265-78-4111(内線2131)

メールアドレス:info@inacity.jp

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